はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 321 [迷子のヒナ]

甘い。

いや、寛容というべきか、パーシヴァルに対して随分と生ぬるい対応をするようになったものだと、ジェームズは期待に満ちたエメラルド色の瞳を見返しながら思った。

特段、首をあらぬ方向に向けてまでパーシヴァルに顔を向ける必要はなかった。だが、目の前では先ほどからジャスティンとヒナがイチャイチャと何やら始めてしまい、それを見ないようにするためにはパーシヴァルを見つめるしかなかったのだ。

「本気だ」というパーシヴァルの返事は、目を見ていればそれだけでわかった。

ジェームズは束の間思案した。

パーシヴァルの申し出を断る理由はいくつもある。無限と言ってもいいほどに。

けど、よく考えてみろ。パーシヴァルが退会して、売り上げがガクンと落ちた。取り巻き達、とくにダドリーとクラムはクラブへ足を運ぶ回数が驚くほど減っている。

パーシヴァルが共同経営者の椅子に座ったと知ったら、きっと彼らは戻ってくるだろう。パーシヴァルが館内を巡回でもしてみろ、オオカミどもがよだれを垂らして追いかけ回すだろう。

「ジェームズ、今日の午後ダヴェンポートの屋敷は無事俺のものになった。しばらく使っていなかったようだが、とくに修繕箇所はないようだ。いつヒナに招待状が届いてもいいように、使用人を何人か送って支度を整えさせておいてくれ。うちには余分な使用人もいる事だしな」

急に何の前触れもなくジャスティンは言った。ヒナは退屈してきたのか、ジャスティンのひざの上でうとうとし始めている。

「わかった。すぐに手配する」と答えたものの、ジェームズはジャスティンが急に話題を変えたことを深読みせずにはいられなかった。

ジャスティンは意味のないことは言わない。たとえ幼稚な恋人に気を取られていたとしても。だとしたら、ダヴェンポートの屋敷――いまはもうジャスティンのものだが――に余分な使用人こと、パーシヴァルの使用人を送るというのは、パーシヴァルがまだしばらくここに居ることに同意するというものではないか。

つまり……共同経営者に迎える気があるということでは?僕に、仕事という言葉さえ知らないような男の面倒を見ろということだ。欲求不満の身体をくねらせ、スティーニー館の中を闊歩するのをパーシヴァルに許すということだ。

「で、僕はここで寝起きしながら、ジェームズの手となり足となってクラブを盛り上げていくよ。それで、文句はないんだよね、ジャスティン」パーシヴァルはごきげんな笑みを浮かべた。ジャスティンの返事がないのは同意のしるしだと取り、もう一度微笑んで付け加えるように言った。「ひとまず、屋敷を売って得たお金を出資金代わりにする。それでいいね」

ジェームズは蒼ざめた。なにかひどく悪い状況に陥っているような気がする。

けれどひとつ分かっているのは、パーシヴァルの屋敷はとんでもない高値が付くという事だ。あの場所のあの屋敷を手放すなど、金と良識のある人物なら絶対にしない。パーシヴァルは言わずもがな、良識を欠如させている。

つづく


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迷子のヒナ 322 [迷子のヒナ]

パーシヴァルの屋敷はすぐには買い手が見つかりそうにもなく、今シーズンはひとまず貸し出されることになった。その家賃収入はすべてジェームズの管理する口座に振り込まれるよう手配してあった。もちろん手配したのはパーシヴァルの優秀な事務弁護士。親子二代にわたってパーシヴァルの世話を焼いてくれている、数少ない理解者だ。

ジャスティンは当然、あっさりとパーシヴァルに経営権を譲るはずもなく、六月のクラブ創立六周年に向けて着々と準備を進めていた。噂はすでに広まり始めていた。若い紳士たちが独身最後の夜を謳歌するかのような、派手なパーティーが開かれるらしいと。

六月ともなれば、そこかしこで似たような催しが開かれる。もちろんそれは、スティーニー館の内情を知らない者による振り分けでしかないのだけれども。知っていれば、だれも似たような催しと形容することは出来ないだろう。

ジェームズはその間、密かに苛々を募らせていた。
このままではパーシヴァルは経営者のごとく口出しをしたうえ、自らパーティーに参加しかねない。それは、ジェームズの望むところではなかった。

ヒナだけはいつもと変わらない日々を過ごしていた。
いや、ひとつ変わった事がある。家庭教師がひとり増えたのだ。万が一にでも、存在も知らなかった孫になど会いたくないと言っていた祖父と対面することがあった場合に備えて、完璧な礼儀作法を身につけておく必要があると、ジャスティンが判断したためだ。これにはジェームズもパーシヴァルも同意した。ヒナは少々自由すぎる。これは誰もが認めるところだ。

六月に入り、まさにパーティーが開かれるその日、二通の招待状がバーンズ邸に届けられた。

一通はランドル公爵からジャスティンに宛てて、もう一通はラドフォード伯爵から――弁護士の代筆によるものだったが――ヒナに宛てたものだった。

ジャスティンは、いままさに出荷されようとしている家畜のような気分になった。今シーズンの結婚市場は大盛況。両親は息子がその中でも一番の注目を浴びることを心待ちにしているに違いない。冗談じゃないと、ジャスティンは思ったが、気掛かりなのはヒナに届いた手紙の方だった。

とうとう来たのだ。ヒナが遠い西の果てに連れて行かれる日が。不安に思う事はない。この日の為に入念に準備を整えてきたのだから。けれどもジャスティンは、二度とヒナに会えないのではという思いを拭えずにいた。

一方のヒナも不安に駆られていた。
ジャスティンが結婚してしまうかもしれないいまとなっては、ひとりで祖父がいもしない屋敷へ行くことに何の意味があるのかわからなかった。両親に会いには行ける。けど、いまでなくてもいいのだ。ヒナの優しく寛容な両親は、もう少しくらい待ってくれるはずだ。

だからまずはジャスティンの結婚を阻止することが先決だ。そのためにも、今夜のパーティーは成功させなければならないのだった。

つづく


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迷子のヒナ 323 [迷子のヒナ]

「ああっ!なんてことだジェームズ、君も仮面をつけるのか?あぁ……まったく素晴らしく魅力的じゃないか」

パーシヴァルはジェームズの前に立ち、目元を覆う黒い仮面にそっと指を這わせた。今夜はジャスティンが享楽的な紳士クラブの経営者として、今以上に名を上げる日だ。会員たちは館内に女性たちを一瞬でも招き入れることに難色を示したものの、ジャスティンの首に結婚という縄がかかろうとしていると聞くと、笑って黙認してくれた。もちろんこんな面白い情報を流した事はジャスティンには秘密だ。知られたら殺されてしまう。

「今夜は従業員もそれらしい装いをしていますからね」ジェームズは仮面に触れるパーシヴァルの手首を掴み、さりげなく自分の口元に持っていき、手の付け根にくちづけた。

「ハリーはつけていなかったけど?それにジャスティンだって――」喘ぐように言い、ジェームズらしくない振る舞いにドキドキと胸を高鳴らせる。

もしかしてジェームズも館内の雰囲気にのまれてしまったのか?だとしたら危険だ。仮面をつけていても、うっとりとするほど美しいジェームズに、襲い掛からない男がいるか?不能のボナーでさえ、勃ちもしない一物を取り出していじくりまわしそうだ。

「そんなことより――あなたこそ、こんなものをつけてどこへ行くつもりですか?ここは通しませんよ」ジェームズがパーシヴァルの仮面を指先で弾く。

「ジェームズのその喋り方好きだな」時折見せる荒っぽい口調も好きだけど、やっぱりジェームズにはこのほうが合っている。

「誤魔化そうったって無駄ですよ」ジェームズは挑戦的に顎を突き上げた。

パーシヴァルは小さく溜息を吐いた。ジェームズの嫉妬深い恋人のような振る舞いに、これまで何度期待させられ、失望した事か。まあ、勝手に期待する方が悪いのだが。

「僕は誰とも触れ合ったりしない。ただの盛り上げ役だ」そう言っても、ジェームズはまだ不満そうだ。「ジャスティンの了承も得ている」念のために言い添える。

「そうですか、わかりました。今夜は朝まで手が離せそうにありません。けど、何かあったらすぐに知らせるように」最後は命令口調で締めくくり、素っ気なくとも取れる態度でさっと唇を重ね、ジェームズらしい颯爽とした足取りで去って行った。

パーシヴァルはぽかんと口を開け、ほっそりとした背中を見送ることしか出来なかった。

今夜はこのまま部屋へ戻ろうか……。

つづく


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迷子のヒナ 324 [迷子のヒナ]

ヒナはめかしこんでいた。

若草色の膝丈ズボンに揃いの上着。袖口にレースをあしらった真っ白なブラウス。ひとりで着替えたので、クラヴァットは結んでいない。洗いたての髪はふんわりと背中に垂らし、前髪は髪飾りで留めた。

ヒナは鏡に向かってにこりとすると、今日の午後内緒で作った仮面を手に取った。

土台は新聞紙だけど、何重にも重ねているため強度はかなりある。金や銀のチョコレートの包み紙を張り付け、仕上げに庭で拾った鳥の産毛を飾った。手持ちのリボンを仮面の端に通し、いびつな穴を目の位置に合わせて頭の後ろで結ぶと完成だ。

「できたっ!」

ヒナは廊下に誰もいないことを確認して静かに部屋を出ると、こっそり裏階段へまわった。足音を立てずに急いで地下通路へ向かう。今夜はみんな忙しくしているから、見つからずにクラブへ忍び込めるはず。

「お坊ちゃま、何をなさっているのですか?」

「ぎゃっ!」

突如背後から声を掛けられ、ヒナは悲鳴を上げた。ぶるぶると震えながら振り返ると、仕事を終えたチャーリーが立っていた。

これなら逃げ切れるかもと判断したヒナは「こんばんは、チャーリー。ヒナは急いでいるのでさようなら」と言って、駆け出した。

が、すぐさま捕まった。

「ダメですよ。今夜はおとなしくしているようにと旦那様に言われたでしょう?」

むむ。チャーリー、意外と手強い。

「おとなしくしてるよ。ちょっとお腹空いたから、おやつ探していただけ」ヒナは小さな羽根飾りを揺らし、チャーリーから逃れようともがいた。

「おやつを探すのに、どうしてこんなものをつけているんですか?」チャーリーはヒナの力作に目を落とした。

「メガネだよ」ヒナは頑として言った。

「め、めがね……ですか?」チャーリーが茶色の目を細めた。

手作りでレンズはなし。けど、いまこの瞬間からこれはメガネだ。「そう、です!」

「じゃあ、一緒におやつを探しに行きましょう」チャーリーはヒナの肩を抱いて、屋敷の方へと導いた。

ヒナは足を踏ん張って抵抗した。「ひとりで大丈夫。チャーリー仕事終わりでしょ?」

「はい。でも、パーシヴァルさまがいつ戻られるかわからないので待機しておかなければいけないんです」

「パーシーは朝まで戻らないって言ってたよ」これは本当だ。パーシーはいい匂いをさせて、とびきりおめかしして出掛けて行った。ジャスティンの結婚を阻止してくるからねと、ヒナに約束をして。

チャーリーは気の抜けたような溜息を洩らした。「だったら今のうちに寝ておこうかな……でも、あの方、予測不能な行動をするからなぁ。お坊っちゃまと同じで」

「そうしたほうがいいよ!チャーリーおやすみなさい」ヒナはぺこりと頭を下げた。「それと、ヒナの事はヒナって呼んでね」

チャーリーが諦めてヒナから手を離した。「今夜はヒナと会わなかったことにするよ。何かあっても怒られるのはヒナだからね。僕はクビになりたくないし」

チャーリーは先日ジャスティンとヒナを奪い合った事で、すっかり目をつけられてしまったのだ。雇い主はあくまでパーシヴァルということでクビにはならなかったが、二度目はないとチャーリーは理解している。

「あぁ~ヒナお腹空いちゃったなぁ。おやつはどこかな~」

ヒナはさまようようにして、地下通路を奥へ奥へと進んでいった。チャーリーは何も見なかったことにして、自室へ戻って行った。

つづく


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迷子のヒナ 325 [迷子のヒナ]

大広間では楽団の奏でる音楽に合わせ、男の人と男の人が優雅にダンスを楽しんでいた。それはもう、密着し過ぎではないかというほど身体をくっつけて。

ヒナはドキドキしながらのぞき穴から目を離した。従業員が使う隠し通路に入りこんで、最初に辿り着いたのがここだった。ジャスティンやパーシヴァルがいないかと、ヒナは仮面をおでこまでずり上げて穴の向こうに目を凝らしたが、それらしい人物は見つけられなかった。かわりに、とても洗練された煌びやかな男性たちの熱を帯びたダンスを見る羽目になったのだ。

ヒナはそこを離れて、通路の奥へ向かった。途中、角を曲がり別の通路へ入った。

気付くと、ヒナは玄関広間の柱の中にいた。手探りであちこちさわっているうちに、ぴょんと表に出てしまった。

あわあわ。ヒナはまごつきながら大きな花台の後ろに隠れた。いつもならここで誰かに発見されて、すぐに裏の方に引きずられていくのだが、幸い誰にも気づかれずに済んだ。

それもそのはず、いるのはハリーとジェームズだけ。

ジャム!!

ヒナは今度こそ悲鳴を上げそうになった。ヒナの冒険もここでおしまい。よろよろとへっぴり腰で柱の中に戻ろうとするが、こちらからの入口は見つからない。ヒナは半ばパニックになり、また花台の後ろに戻った。

ジェームズに気付かれていないのかどうか確かめようと、物陰からそろりと顔を突き出した。

その時玄関が開き、華やかな香りと共に大勢にひとが流れ込んできた。ヒナはまたサッと隠れた。

「こんばんは、ハリー。お招きいただけて光栄よ。もちろん、紳士方は喜んでいないのでしょうけど」

ソプラノの声に続いて、何人かの軽やかなくすくす笑いが聞こえた。

「すぐに追い出したりはしないでしょうね?」

今度はツンと澄ました声。

「わたし、すごく喉が渇いてるの」

と、どれもこれも女性の声だ。

「追い出すなどとんでもない!客間にお食事とお飲物をご用意しております」とハリーが言うと、「シャンパンもあるのかしら?」とソプラノが尋ねた。

ハリーはうやうやしげに「はいマダム」と答え、彼女たちを引きつれてヒナの方へ歩き出した。

ヒナは素早く危険を察知すると、ネコ並みのすばしっこさと忍び足の技術を発揮して、うっかり件の客間へと逃げ込んでしまった。

つづく


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迷子のヒナ 326 [迷子のヒナ]

目の前をネコが横切ったような……。

吹き抜け二階の手すりにもたれ、階下のジェームズを盗み見ていたパーシヴァルは、目をごしごしとやった。

というより、あれはヒナだ。
いびつであやしげな仮面をつけて、いったい何をしている?女性たちの先陣を切って客間へ駆け込んで、まさか、薄絹をまとっただけのほとんど裸同然のレディと戯れるつもりじゃないだろうな?ったく。ヒナにはまだ早いっての。

そんなことよりも、ジェームズに見つかったら今度こそただじゃすまないぞ。

「ジェームズ、レディたちが到着したようだね」声を掛け、階段を降りる。

ジェームズが憮然とした表情でこちらを見上げた。「カードルームにいたのでは?」

パーシヴァルは笑みを零さないように、きゅっと唇を結んだ。ジェームズが僕がどこで何をしているのか把握していることが嬉しかった。腕の中に飛び込んで頬擦りをしたい気分だ。けれど、いまはジェームズをここから追い払うのが先決で、戯れるのは今夜のパーティーが無事終わってからだ。

「さっきまでね。ドーソンを丸裸にしてやった」階段を降りきり、適切な距離を保ってジェームズと向かい合う。いちおうここは仕事場だ。ジェームズに恥をかかせるような真似は出来ない。

「彼は喜んで裸になったでしょうね」

嫌味っぽい口調だ。パーシヴァルはそこに紛れもない嫉妬を感じ取った。

「僕は一枚も脱がされなかった」けど、ドーソンのねじ曲がった一物をこれでもかというほど見せつけられた。吐きそうになったので、戦利品を従業員に預け逃げ出したというわけだ。

「それで、次はどこへ?」ジェームズは苛立たしげに尋ねた。いちいち聞かなくても報告しろと言わんばかりだ。

「せっかくだからレディたちに挨拶をしてくるよ。ジェームズもどうだ?」

「遠慮しておきます」にべもない。

「相変わらず、冷たいんだな。今夜のパーティーの成功は彼女たちにかかっているんだ、愛想よくしておいても損はないと思うけど」ちょっと意地悪な言い方だった。ジェームズはどのような種類の女性にも、嫌悪とは違う恐れのような感情を抱いている。

「あなたは女性にも人気があるようですけど、自分の役目を忘れないようにしてください」
ジェームズは手を伸ばし、指先でパーシヴァルの頬に軽く触れた。たったそれだけで、何でも言うことを聞いてしまいそうだ。

「もちろん忘れないさ。僕はただの盛り上げ役さ」

立ち去るジェームズの背中に向かって言い、パーシヴァルは無鉄砲なヒナを助けに向かった。

つづく


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迷子のヒナ 327 [迷子のヒナ]

女性たちに追い立てられ、客間に逃げ込み、カーテンの陰に隠れたヒナだったが、ハリーが部屋を出て行くと、たちまち好奇心が疼きだした。

ヒナはカーテンからそっと顔を出した。

一〇人ほどいるだろうか。女性たちはあちこちに散らばり、ぺちゃくちゃとお喋りを始めていた。しゅわしゅわの飲み物を片手に、赤いベルベッドの椅子に座った赤い髪の女性は、心地よさそうに喉を鳴らしグラスを空けた。

『ヒナもあれ飲みたい!』

ヒナはカーテンの裏に引っ込んで、こそこそと飲み物の置かれている場所まで移動した。けれどそこにあるものを手にするには、姿を現さなければならない。

ヒナに躊躇いはなかった。

なぜならば、飲み物のそばには、デザートがたっぷりと用意されていたからだ。

「こんばんは」

カーテンから飛び出したヒナは、華やかな女性の視線を一身に浴び、恥ずかしさから頬を赤らめた。もじもじと身体を揺すりながら、チラチラと様子をうかがう。どの女性も身体が透けて見えてしまうようなドレスを身に着けている。いっそ裸と言った方が早いくらいだ。

「こんばんは、仮面の紳士さん」

真っ先に返事をしてくれたのはソプラノさんだった。彼女ももちろん仮面をつけていた。宝石の散りばめられた金色の仮面だ。

あっという間にヒナは女性たちに取り囲まれた。お尻みたいな胸に押しつぶされそうだ。目のやり場に困ったヒナは、仮面をちょっとずらして視界を遮断した。

女性たちは声を立てて笑った。

いくつもの細くて柔らかい手がヒナを捉え、ずるずると引きずって行く。

「あ、あの、ヒナはおやつを」目隠し状態のヒナは両手を伸ばし、顏に押し付けられるお尻だか胸だかを押し返した。

「いやん」と嬉しそうな声とくすくす笑い。

ヒナは泣きそうになった。ヒナの知る女性は、ヒナを押し潰そうとしたり「いやん」などと言ったりはしなかった。ここ最近目にした女性と言えば、ニコラくらいなものなのだが。

「はいはい、お嬢さんたち。その子は僕の大切な子だから、手を離して」

この声は、パーシー!!
やったー!助けが来た。
あれ、でも……ヒナ追い返されちゃう?

「あら、クロフト卿。今夜は会えないと思っていたわ。もちろんあなただけじゃなく、どの紳士にもね」

ソプラノさんとパーシーは知り合いみたい。ヒナを掴む手がひとつふたつと離れていく。

「クロフト卿?おいおいキティ、何のために仮面をつけていると思っているんだい?」

「まあ、そんな言い方して。こんなくだらないもの外してしまいましょうよ」

ヒナは解放され、ソファの上にちょこんと放置された。仮面をもとに戻し、きゃあきゃあと騒ぐ女性たちに囲まれるパーシヴァルを、首を伸ばして眺めた。あの輪の中に加わる勇気はない。

みんな仮面を外していたが、ヒナは精魂込めて手作りした新聞紙仮面を外そうなんてこれっぽっちも思わなかった。

なんたって、今夜はみんな正体を隠してパーティーを楽しむ日なのだから。(言うまでもなくヒナは招待されていない)

つづく


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迷子のヒナ 328 [迷子のヒナ]

「まったく。もう少しでジェームズに見つかるところだったぞ」

パーシヴァルはひとしきり娼婦たちと戯れた後、ヒナを連れて客間を出た。ヒナは色々な意味で旺盛な女たちを怖がってはいたものの、甘い誘いにはすんなり乗って来た。差し出された一口サイズのクロワッサンを甘えん坊の子供のように口に入れてもらったりして。ジェームズどころか、ジャスティンに見つからなくて本当によかった。さもなければ、僕がどんな目に遭った事か、考えるだに恐ろしい。

「ぶう。パーシーはソプラノさんとイチャイチャしてたって、ジャムに言っちゃうよ」

ヒナはおやつを取り上げられご機嫌ななめだ。

「むむ。救世主を脅すなんて、僕のおいっこはなんて恐ろしいんだ」そう言って、パーシヴァルはおどけたふうに肩をすくめた。ヒナの手を引き、誰にも出くわさない場所を選んで、地下通路へ向かう。正面突破は難しいのでかなりの遠回りだが仕方がない。

「キティとは長い付き合いだけど、友達以上になろうと思った事なんて一度もないよ。あり得ない。ということで、ジェームズに言っても無意味だよ」

「パーシーはみんなと仲良し」

「そうそう。ヒナと同じで、僕は誰とでも仲良くなれるんだ」

「あ、ここ秘密の入口」

「なんだって?」どうしてヒナがそんなの知っているんだ?僕の方が館内のあれこれには詳しいと思っていたのに。「どこに入り口が?」

「ここ」と言って、ヒナが壁の何でもない部分を手で押した。壁は音もなく動き、ヒナとパーシヴァルを呑み込んだ。

「痛ッ!」勢い余って狭い通路の壁に突き当たった。

「こっちに行ったら、ダンスしているのが見られるよ」ヒナはパーシヴァルの『痛ッ!』を無視して、ガイドとなって通路を進む。

「ダンス?」そのダンスは着衣で立ったまま行われているダンスだろうか。裸で寝転がってたりしないよな。いや、ことによっては裸で立ったままというパターンもあり得る。「ヒナ、僕が先を行ってもいいかな?」

「狭いから無理」

「ヒナがちょっと屈んでくれさえすれば、長い脚でひとまたぎなんだけどな」

ヒナはひょいと屈んだ。パーシヴァルはまたいだ。そして光に吸い寄せられるように、大広間が覗ける場所までやって来た。

「――ッ!!」ダメだ。すでに始まっている。ヒナが見た時は比較的上品に踊っていたかもしれないが、いまは上品とは言い難い踊りに変わっている。

むしろ下品だ。かつて自分もこれに混じっていたかと思うと、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。しかも愛しいジェームズにも見られていたかと思うと……自己嫌悪どころの騒ぎではない。

「パーシー見えた?」ヒナがわくわく声で尋ねる。

「うーん……見えたけど、もう終わったみたいだ。戻ろうか?」なるべく残念そうな声で言う。ヒナが諦めてくれるように。

「そうなの?でも音楽が聞こえるよ」なかなか鋭いヒナ。

「空耳だよ。さ、ヒナ。元来た道戻って」

パーシヴァルは、爪先立って隙間から覗こうとするヒナをぐいぐい押した。

ヒナは足を踏ん張った。

パーシヴァルはなおも押した。埒が明かないので、抱き上げて、通路を小走りに駆け抜けた。さっさと屋敷へ戻らなくては。

が、出口がわからず、二人は完全に迷ってしまった。

つづく


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迷子のヒナ 329 [迷子のヒナ]

「ヒナがいない?」

乱痴気騒ぎとは無縁の執務室に非難していたジャスティンは、思い掛けない報告に声を裏返した。

報告してきたのはエヴァン。今回のパーティーの裏方一切を任されている。

「はい。たったいまダンが血相を変えて報告にやって来ました」

「シモンのところではないのか?」ジャスティンは書棚の上の置き時計に目をやり、その可能性がどのくらいあるのか瞬時に弾きだした。ヒナはキッチンにはいない。この時間、シモンはすでにベッドの中だ。

「ダンは真っ先にキッチンへ探しに行ったようです」とエヴァン。

「屋敷中探したのか?もうとっくに寝ている時間だぞ!」

声を荒げるジャスティンなど気にも留めず、エヴァンは淡々と続ける。
「お気に入りの若草色の上下が見当たらないようです。可能性としては、クラブに侵入しているのかと――」

「クラブに侵入だと?お前はいったい何をしていた?ヒナがこっちへ来たことにも気づかないなど、館内すべてに目を配っていないと認めるようなものだぞ!」

「申し訳ございません、旦那様」

「すぐにハリーに知らせろ。それで解決する。それと近隣から苦情がいくつか届いているようだ。頃合いを見て、用意しておいた詫びの品を届けるようにと、ジェームズに伝えてくれ」
カッカするジャスティンは手を振ってエヴァンを追い払った。
ヒナがちょろちょろと動き回るのは誰のせいでもない。エヴァンが小さな子猫の侵入を見逃したからといって大騒ぎすることもない。が、今夜は別だ。客たちはすっかりタガが外れている。

一旦はハリーに任せようと決めたジャスティンだったが、じっと机に向かってヒナが首根っこ捕まえられるのを待っていられるはずがなかった。この手で捕獲して、抱き上げて、二度と逆らえないように、まずは口を封じてやる。それからじっくりと時間をかけて、ダメなものはダメだと身体を使って言い聞かせる必要がある。

従順なヒナも悪くはない。
すっかりわがままに成長したヒナが「はい、ジュス」といい子で返事をする姿も、またかわいいものだ。

ジャスティンは部屋を出て、ヒナが行きそうな場所に足を向けた。人が多い場所には近づかないだけの頭はある。けど、悲しいかな。単純なヒナは夜食でも求めてキッチン辺りをうろついているだろう。
報告がまだあがっていないのが気になるところだが、まずはそこから攻めてみることにしよう。

つづく


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迷子のヒナ 330 [迷子のヒナ]

「ヒナッ!くすぐったい。おとなしくしててよ」

薄暗く狭い通路を彷徨い、結局、ヒナの知る出口を目指すことになった。玄関広間の柱の中らしいが、パーシヴァル・クロフトが登場するにはいささかまぬけな場所ではないだろうか。しかも腕にはヒナがいる。僕の華奢な腰はさっきから痺れっぱなしだ。

「なにがくすぐったいの?」ヒナは呑気なものだ。

「その愛らしい仮面のちっちゃな羽根が僕の鼻をくすぐっているんだよ。さっきからずっとね」

「パーシーの羽根は大きいね。どこで見つけたの?」ヒナはどことなしかおねだりふうな羨望の眼差しを、パーシヴァルの華美な仮面に向けた。

うーん。どこでと言われてもな……。「木の上に引っ掛かってたんだ」

「ヒナ、木登りできる」

「いや、もうないと思う。だから、ヒナには僕の仮面をあげるよ。小さなダイヤモンドが付いていてよければね」

「ダイヤモンドはいらない」

あ、そう。欲しいのは羽根だけって事か。

「うん、でもまあ、ここから無事出られたら、ヒナにプレゼントするよ。好きにして」

「ありがと、パーシー」ヒナは嬉しそうに微笑んで、パーシヴァルの背中にまわした手をぎゅっとした。

この仕草は、パーシヴァルがもう少しだけ腰を酷使しようと思うに充分なものだった。問題の大広間さえ過ぎれば、こっちのものだ。

「お腹空いた」ヒナが言った途端、パーシヴァルのお腹が鳴った。

ヒナはきゃははと笑った。

パーシヴァルは苦笑いで応じ、足早に問題の部屋の前を通り過ぎた。
壁一枚隔てた向こうでは、垂涎ものの行為が繰り広げられているが、ジェームズが相手でなければ意味がない。

ここから出たら絶対にジェームズにキスをする。それからすぐに自分の部屋に戻って、おとなしくベッドに入る。疲れ切ったジェームズが癒しを求めていつベッドに潜り込んで来てもいいように。

けれど、ひとまず、何かお腹に入れた方がいいようだ。

キッチンに寄って、ローストビーフを何切れか拝借する事にしよう。ヒナにはさっき食べ損ねたチョコレートタルトを――いや、寝る前の甘いものはダメだと、確かジャスティンが言っていたな。でもまあ内緒にしておけばいいか。

「さあ、ヒナ脱出だ」パーシヴァルは終着点の柱の中で囁いた。

ヒナは「おー!」と何やら元気な声を出し、先陣を切って柱の中から飛び出した。

パーシヴァルもぐずぐずせずに外へ出た。灯りに目が眩み、しばらくぼんやりとしていたが、目が慣れてくるにつれ、玄関広間にいるのがドアマンだけではないことに嫌でも気付かされた。

ハリーはいると思った。
一応確認して出たが、客に遭遇することも想定していた。

けど、ジャスティンとジェームズが揃ってお出迎えとは、あまりに残酷な仕打ちではないか?

つづく


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